【 ゼロイチラボ セッションレポート】

Think Green Produce。一風変わった社名である。「Think Green」とは何だろう?グリーンとは単純にいえば緑色や植物のことを指すが、広い意味では「環境」を意味している。ゆえに、Think Green Produceとは「これからの環境のことを考えて、これからの街と生活と文化をプロデユースすること」。そんな思いを社名に込めている同社代表の関口正人さんをゲストにお招きした。

「今までの日本では『スクラップ&ビルド』の考えばかりでした。でも僕たちはそうではない道を行きたいと思っています。自分たちがつくりたいのは、スタイルのある生活であり、スタイルのある街であり、スタイルのあるカルチャーです。本来日本には日本のスタイルがあるんですが、それがどんどん薄まっています。これをもう一回作り上げていきたいと考えています」。

建築畑出身の関口さんは、自社のベースを不動産業にあるとしたうえで、そのようなスタイルある街をつくっていくことが、結果的に日本の不動産のバリューアップに繋がっていくと考えている。現在の日本の不動産時価総額は約1,000兆円。しかし、かつてはそれが2,000兆円あった時代もあったのだ。差額の1,000兆円は失われたとも言えるし、見方を変えれば「1,000兆円の伸びしろのあるマーケット」とも捉えられるわけである。

同社の代表的なプロジェクトを見ていこう。鎌倉に「GARDEN HOUSE」というカフェレストランがある。鎌倉の使われなくなってしまった古民家の案件を持ち込まれたのだが、様々な制約から住居やオフィスにするには都合が悪い。結局、関口さんは自らがそこで飲食店を始めることになる。歴史と趣きのある建物、気持ちの良い庭、そしておいしい料理と飲み物。同店は瞬く間に鎌倉を代表するカフェレストランとなる。街に寄り添い、一体化しながらも、独自のスタイルを提案し、新しい価値を生み出す。Think Green Produceらしい素敵なプロジェクトだ。

あるいは、先日開業からちょうど1年を迎えた渋谷の「マスタードホテル」。名前のマスタードとは辛子のマスタードに由来する。「街の隠し味でありたい」という気の利いた思いがその名称には込められている。このホテルについても、日本にはなかなか「スタイルのあるホテル」がないという問題意識から生まれている。こだわったのは、デザインやアートの要素だ。アーティストが一定期間、街や建物に住んで作品を制作する「アーティスト・イン・レジデンス」という考えがある。

同ホテルではこのアイディアを取り入れ、アーティストに宿泊場所を提供し、その間にホテルで作品をつくってもらう試みをしている。結果、デザイン性やアート的要素が評価され、さらにそうした情報が宿泊したアーティストやゲストからSNSで発信されることで、外国人を中心に宿泊客が数多く訪れ、高い稼働率を誇る人気のホテルとなっている。

そんな関口さんが今関心を抱いているのは、日本のフードカルチャーの輸出だと言う。「カルチャーとは生活が積み重なった結果です。老舗というのは一般的には100年以上続いている企業やブランドのことを言いますが、それはまさにカルチャーそのものです。日本では3.3万社[1]あると言われている老舗が毎年400社以上廃業[2]しているそうです。一方で、海外の和食市場の規模は毎年大きく成長しています。けれども、それらの和食店はほぼ外国人によって経営されています。その両者を繋ぐことができれば、とても面白いし、意義あることだと思うんです」。

そんな思いから関口さんは、老舗企業と組んでサンフランシスコで「出汁」をテーマにしたイベントを実施した。50ドルもするワークショップのチケットは各種取り揃えていたにもかかわらず、わずか5分でSOLD OUT。現地のクラフトショップやレストランなどともコラボレーションし、イベント期間中には、一日2000人以上が来場したとか。「大切なのは『熱量』です。きちんと編集された日本のクラフトカルチャーを熱量とともに届ければ、必ず評価してくれる人はいるんです」と、関口さんは言う。

直営の店や施設も多数あるものの、それも含めて関口さんの仕事の本質は、Think Green Produceという社名の通り、「プロデュース」することだろう。そしてプロデュースとは概してトレンドや流行と無縁ではない。しかし、関口さんや同社の仕事を見ていると、そこにスタイルはあれど、そうした表層的なトレンドの影は見当たらない。それは、自身が建築や不動産、さらに言えば街という長期的視野に立つことが求められる領域に軸足があるからではないかと強く感じた。関口さんはきっとこれからもそんなスタンスで、街を、生活を、文化をプロデュースしていくのだろう。


[1] 帝国データバンク 「老舗企業」の実態調査(2019 年)

[2] 帝国データバンク 「老舗企業」倒産・休廃業・解散動向調査(2018 年度)

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