【 ゼロイチラボ セッションレポート】

みなさんは「キッチハイク」というサービスをご存知だろうか?キッチハイクは見ず知らずの他人同士が、それぞれが関心ある「食」をきっかけに集まって一緒に食事をする機会を提供している。言わば、「ソーシャルイーティング」や「シェアダイニング」とでも呼ぶべき食のプラットフォームである。今回はそんなキッチハイクを創業し、共同代表を務めている山本雅也さんをゲストにお招きした。

そもそも山本さんはなぜこんなサービスを提供するに至ったのだろうか。それは新卒で入った会社をやめて世界中を放浪していたときの体験に由来する。山本さんは伝手をたどって、世界各地の一般家庭にお邪魔し、ともに食卓を囲むということを1年半も続けた。そこで実感したのは、一緒に食事をすることは人と人の心の距離を一気に縮め、絆までを育む力があるということだ。それならば、こうした機会を作り出すサービスを開発しよう。そんな思いで2013年に創業したのがキッチハイクである。

ただし、きっかけが外国での食体験だったゆえに、初期のキッチハイクも「旅先や外国での食事」にフォーカスしていた。とてもユニークなコンセプトではあったものの、ユーザー数は伸び悩み、マッチングの機会もさほどつくることができず、事業としては転換を迫られることとなる。そこで2016年からは対象を日本国内にしぼり、日常生活の中で個人の家やキッチン付きスペースなどで、みんなで食事をすることを促すサービスへとピボットした。これによりユーザー数は一気に伸びていく。

さらに、食べる場を個人宅やレンタルスペースに限定することなく、一般の飲食店も活用することとした。例えば、「みんなで羊料理専門店に食べに行く」と行った企画である。これによって、「その店は前から行ってみたかったけれど、なかなか行く機会がなくて」といったユーザーを取り込むことができるようになった。そして現在は登録会員数7万人、イベントが毎月数百回も開かれるようなサービスへと成長を続けている。

そもそも、ユーザーはなぜ見ず知らずの人と食事をしようと思うのだろうか。ひとつには、食の嗜好はその人の価値観を如実にあらわすだけに、イベントに参加すると自分と似たような価値観を持つ人に出会えるかもしれないという期待があるだろう。キッチハイクのイベントでは会話の中心は「食」にあるので、そこでは社会的な肩書は必要がないし、さほど意味を持たない。純粋に食の話題を基点としてコミュケーションが成立するのだ。

一方で開催の場となる飲食店にとってはどんなメリットがあるのだろうか。まず、販促ツールに頼る通常の集客手段とは違う形で、予約が入ることはありがたいに違いない。さらに、キッチハイク経由で来店するお客は誰かに連れられてきたわけではなく、「その店に行ってみたい」「その食を食べてみたい」と自発的に思っているわけなので、店舗にとってはその後、優良顧客になる確率も高いのだ。

to Cのユニークなサービスを展開しているキッチハイクには、大企業も注目している。そのひとつがサッポロビールだ。サッポロビールとキッチハイクは業務提携をして、「ホッピンガレージ」というプロジェクトを立ち上げた。これは、「こんなビールがあったらいいな」というアイディアを募集し、有望なものは実際に製品化してしまうというものだ。キッチハイクのプラットフォームを使って、実現化したビールをみんなで楽しむイベントも毎月開催されている。

キッチハイクのミッションは「食でつながる暮らしをつくる」、そしてそれを表わすわかりやすいスローガンとして「みんなでごはんを食べよう」という言葉を掲げている。山本さんは言う。「原始時代は当たり前のように、みんなでごはんを食べていました。そして部外者とコミュニケーションをとったり、友好を深めたりするためにも、一緒に食卓を囲んでいたんです。世の中が変わって一、人でごはんを食べることも増えました。もちろんそれが悪いわけではありません。でも、やっぱりみんなでごはんを食べることは、人間にとって根源的なことであり、そして大きな喜びだと思うんです」。

山本さんの、そしてキッチハイクの話を聞いていると、無性に誰かとごはんを食べたくなってくる。その先には間違いなく、人と人の豊かな関係性があり、そしてそれは豊かな社会、豊かな未来へと繋がっていくに違いない。

【 ゼロイチラボ セッションレポート】