【 ゼロイチラボ セッションレポート】

「カヤック」という社名を聞いて連想することは、人によって随分違うだろう。ある人は、「なんか『うんこミュージアム』とかやっている変な会社でしょ」と思っているかもしれないし、またある人は「サイコロでお給料の一部が決まるなんて、妙なことを考えるね」と感じているかもしれない。あるいは「鎌倉に本社があるなんていいよね」とうらやんでいる人もいるだろう。

ただし、おそらく共通して認識されているのは、カヤックが自らを「面白法人」と名乗っていることではないだろうか。会社が「法人」という、ある種の「人」であるならば「面白い人」の方がいい、3人の創業メンバーの思いがその呼び名を生み出したそうだ。今回はそんなカヤックの代表取締役の柳澤大輔さんをゲストスピーカーにお招きした。

カヤックでは、ウェブやゲームなどの領域でのユニークなコンテンツを開発する他に、鎌倉という地域を拠点に、街を面白くしていくサービスも推進している。柳澤さんは「街というものは、まだまだ面白くできる、取り組み甲斐のある『コンテンツ』なんですよ」と言い、地域と個人をつなぐ移住スカウトサービスなども手掛けている。

カヤック、そして柳澤さんが掲げる概念に「地域資本主義」というものがある。これまでの「GDP」という指標だけではなく、もっと違う考え方を取リ入れていかないと、幸せな未来は訪れないのではないか、そんな問題意識が背景にはある。「僕は資本主義を否定するつもりはまったくありません。でも、それだけでは限界も来ています。そんな中で、地域資本を増やすというのは有効なアプローチだと思うんです」と柳澤さんは言う。

カヤックがはじめた取り組みに「まちの社員食堂」というものがある。鎌倉ではそれなりの人数の人が働いているが、自前の社員食堂を持つような大きな会社は多くはない。一方で、鎌倉の飲食店は、どうしても観光客頼みになりがちで、意外と地元で働く人に利用されていない。だったら、その両者をつなぐことで面白いことが起きるのではないか。そんな思いからプロジェクトは始まった。

鎌倉駅近くに拠点(店舗)を設けることで、鎌倉で働く人なら誰でもそこで食事ができる。そして肝心の料理は市内の人気飲食店が週替りで提供している。会員企業に勤める従業員は定価から100円引となる。こういう場があることで、来店した人同士に会社の垣根を越えたつながりが生まれたり、あるいはお客とお店との新たな出会いも生まれたりする。こうした活動は地域の社会資本を増やすことに直結していくのだ。

カヤックではこの「まちの社員食堂」のほかにも、「まちの」シリーズとして、鎌倉市内の企業の人事部が連携して合同で採用活動を行う「まちの人事部」、市内のカフェやレストランで映画を上映してみんなで楽しむ「まちの映画館」、地域の人たちにとっての学びの場としての「まちの大学」などを展開している。

次から次へと「面白い」ことを生み出すカヤックだが、それを可能にする秘訣は何だろうか。話をうかがっていると、2つの社風が見えてくる。ひとつは「失敗するなら最速で」と、会社がチャレンジを推奨し、失敗を許容するスタンスだ。柳澤さんは言う。「僕らのような事業領域ではスピード感が大事なので、長い時間をかけて検討している余裕はありません。だったら、やりたいという人には基本的にまずやらせてみます。そうすると大抵は失敗します。でも、失敗をたくさんすることで、だんだん『当てる』ことができるようになっていくんです」。

そしてもうひとつは「ブレスト信仰」だ。集団でアイディアを次々と出していく「ブレスト(ブレーンストーミング)」の存在を知っている人は多いだろうが、カヤックほどそれを会社の文化として取り入れているところもないだろう。何かあれば、カヤックではすぐにブレストをするそうだ。いいブレストをしていくと、脳がポジティブになり、誰かの意見にどんどん乗っかっていくようになる。次第にアイディアとアイディアは溶け合っていき、最終的には元は誰のアイディアだったかがわからなくなるくらい、チームには一体感が出るのだと言う。

「アイディアいっぱいの人は深刻化しない」。柳澤さんが好きだということの名言。もしも現状に深刻さを感じている人がいるとしたら、そこには柔らかなアイディアを生もうという心持ちが欠けているのかもしれない。そんなときは、まずは「面白がる」ところから始めてみるのがいいのではないだろうか。

【 ゼロイチラボ セッションレポート】

※柳澤さんの著書「鎌倉資本主義」はとても参考になります。