【ゼロイチラボ セッションレポート】

今回は特別にゲストを2名お招きした。FIKA代表の福山大樹さんとノットワールド代表の佐々木文人さんだ。共通するテーマは「インバウンド」。二人とも直接「食ビジネス」を展開しているわけではないのだが、インバウンドを語る上で「食」は切り離せない要素だ。それぞれ個別に話をしてもらったので、そのポイントを順に追っていこう。

まずは福山さんから。FIKAは現在、「UNPLAN Kagurazaka」(神楽坂)と「hostel DEN」(神田)という2つのホステルを経営している。「ホステル」とは時折耳にする言葉だが、その意味するところは何だろう。福山さんはそれを「ホステル=宿+観光拠点+情報発信基地」と定義している。ただ宿泊するだけのホテルではなく、働くスタッフやあるいはゲスト自身が情報を発信し、互いに繋がり合っていく「場」なのだ。その意味で、ホテルに比べてゲストとの距離がぐっと近いと言う。

2つのホステルはそれぞれ相部屋が中心で、宿泊単価も神楽坂の施設で4000円程度と決して高くはない。とはいえ、インバウンドビジネスが加熱する中、それを狙って宿泊事業に参入する企業も多く、競争は激化している。当然、価格競争が起こっており、競合の中には、かなりの値下げに走るケースもあると言う。しかし、福山さんはそちらに行ってはまずいと判断し、むしろ質を高めることで競争を回避しようとしている。

例えば、スタッフのチームビルディング。リーダーに外国人を指名し、そしてチーム間のコミュニケーションを円滑にするように努力した結果、毎日のようにスタッフ自ら改善案を提案する状態になっているそうだ。あるいは、高い参加費をゲストから取ることなく、ラウンジスペースで日本酒の試飲イベントをしたり、ゲストを連れて街へ「バーホッピング」に繰り出したりしている。結果的に、顧客獲得のために欠かせない予約サイトのレビューでも、ほぼ90%以上の満足度を誇っている。

一方、ノットワールドの佐々木さんは、築地や浅草などを巡る食べ歩きツアーやプライベートツアーなどを企画・運営している。年間1万人ものゲストを相手にしているが、トリップアドバイザーのレビューにおいて95%もの満足度を誇っている。2018年には同サイトの体験・ツアー部門においてTop10に入るほどの人気コンテンツなのだ。

その秘訣を聞くと、それはツアーの「磨き込み」にあるという。ガイドが一方的に話すだけでは顧客の満足度が上がるはずはない。同社が重視しているのは、「3つのS」。お客が笑顔になってくれるかという「Smile」、ビックリするかという「Surprise」、そして「なるほど!」と納得するかという「make Sense」。これらを感じてもらえるように、ツアー内容をブラッシュアップし、また新人ガイドへの徹底的なフォローを行う。これによって、100%ではなく120%の満足度を感じてもらうよう、PDCAサイクルを回しているそうだ。

佐々木さんが挙げた「3.3%」という数字も興味深い。これは訪日外国人の消費額における「娯楽サービス費」の占める割合だ。このスコアはアメリカで12.2%、フランスで11.1%というから、それらと比較するといかに日本において観光客は「娯楽サービス」にお金を使っていないかがわかる。その大きな原因は、使うべき娯楽サービスが未発達な点にあるはずで、そう考えるとツアーやアクティビティなどの伸びる余地はまだまだ大きいと言えそうだ。

2017年の訪日外国人数は2,869万人に達した。2007年にはこれが834万人だったので、この10年で実に3倍以上に増加している。そして中国やASEAN諸国においてこれからも中間層・富裕層が増えていくことは間違いないので、この数字はさらに伸びていくことだろう。

二人に共通していたのは、こうした「市場拡大」のフェーズにおいても、それに慢心することなくオリジナリティを磨き、何よりゲストを満足させるために改善の努力を惜しまない姿勢だ。巷でさんざん言われる「おもてなし」という耳ざわりは良くとも中身のない言葉を使うことなく、それぞれが自分たちらしいホスピタリティを追求していたのが印象的だ。

と同時に、来たるべき未来を早くに予見し、そこに向けて早々に手を打つ姿勢も見事だ。「予見」というと大げさかもしれないが、東京オリンピックが決まった時点で、そしてそれ以前からのアジア諸国の経済的成長によって、訪日外国人が増えることはすでに「予定されていた未来」と言っても良かったはずだ。そんな未来に向けて、自らのポジションを素早く移動させること。これは言葉にするのは簡単だが、誰にでもできることではないだろう。

※この日はいつもの会場ではなく、ゲストの福山さんが経営するUNPLANにて行い、終了後はそのままラウンジでゲストも交えての懇親会を開催しました。

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