【働き方ラボ セッションレポート】

「地域と食の新しい働き方ラボ」2人目のゲストは、神奈川県の大磯町で活動する「NPO法人西湘をあそぶ会」代表の原大祐氏。原氏は、県内最大のマルシェ「大磯市(おおいそいち)」の仕掛け人。毎月第3日曜日に開催されるこのイベントには、出店者200店、来場者5,000~10,000人を集め、まちに大きなにぎわいを生み出している。こうした取り組みを通じて、どのような地域と人のくらしを描いているのだろうか。

大磯町は、海に面した温暖なエリアで著名人の別荘や自宅も多く、伊藤博文、吉田茂などの歴代首相が居を構えたことでも知られている。宿場町として栄えたまちであり、その後も日本初の海水浴場としても人気を博したが、都市化が進むなかで人口は減少し続け31,500人(2017年12月現在)、高齢化率も32%と高い。ちなみに、「湘南」発祥の地は大磯であると言われている。

大磯高校出身の原氏は、高校生のころに、将来は大磯の山と海が見える場所に住むと決めていたそうだ。東京から短時間で行ける田舎、歴史もあり静寂もあり地産食材があり、コミュニティがあるがゆえに料理を持ちよっての家飲みスタイル。その魅力とは、都心の経済的豊かさとは異なる、田舎ならではの豊かさだと話す。

大磯での取り組みは実に多彩だ。最初に手掛けたのは「めしや大磯港」。漁協直営の港の食堂である。相模湾の魚種は豊富で、アジなどの大衆魚も鮮度良く提供することで十分に魅力的なメニューとなる。この仕掛けは大当たりし、初年度から5万人の集客を実現。漁協の貴重な収益源となった。

その後の取り組みが大磯市である。200店舗・2万人が集まる市場にすると宣言してスタートしたが、2010年9月の第1回は出展者が19店舗と関係者のみ。ただ、港ならではのゆったりとした雰囲気がなんとも心地よく、継続して出店してくれたことで出店者並びに来場者を増やしていくことができた。出店条件は、ローカルで、インディペンデント(独立して)に取り組んでいること。原氏は、港をチャレンジの場にしたいと考えている。出店者はそれぞれが独立した個性を保ちながらも、ほどよい距離感でつながっている、それが大磯市全体のゆるやかで居心地のよいトーンをつくりだし、人を惹きつけているようだ。その後は、県下最大級のマルシェへと成長を遂げている。

駅と港の間にあるマチナカエリアにも取り組みは広がっている。たとえば、かつては吉田茂首相の番記者が一杯飲んで帰るのに好んで立ち寄ったという居酒屋として使われていた空き家を大磯市の出店者のセレクトショップ「つきやまARTS&CRAFTS」にリノベーション。離れの風呂場はギャラリー「お風呂場」として活用し、大磯市に参加する作家30人で共同運営している。つきやまの隣の空き家もリノベーションを行い、「茶屋町CAFE&DELI」、大磯市の人気のパン屋「LeesBread」が出店し、駅チカながら味わい深い一角ができつつある。

元歯科医院だった3階建てのビルを活用した「OISO1668」は、1階が森の幼稚園、2階がコワーキングスペース、3階がオーガニックカフェ。1階に子どもを預けたママさんが2階で仕事をするスタイルも生まれ、職住近接を実現する場となっている。また、大磯のまちなかで単独開催されていたイベントをまとめることで「大磯うつわの日」としてバージョンアップさせた例は、原氏のプロデューサー的な動きであろう。点在するセンスのよい取り組みを、面として編集して見せていくことで、地域ぐるみの動きとして巧みに発展させている。

あらためて、原氏が目指していることは何か。「変わらない大磯の魅力を残していきたい。そのために、時代にあわせて変わり続ける必要がある」。そう話す同氏は、上記の取り組みのほかにも、荒廃農地を活用した農的くらしのコミュニティ、団地の再生、など、さまざまなプロジェクトを手がける。こうした取り組みを通じて、地域で自分らしく暮らし・働く人の舞台をつくっているように見える。その集合体が大磯というまちの色となり、新たな人を惹きつける魅力につながっているのかもしれない。

一時的な盛り上がりよりも、丁寧で持続可能な暮らしの目線が大切にされるまち、大磯。ぜひ足を運んでみていただきたい。

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