【 ゼロイチラボ セッションレポート】

みなさんは「ベルギーワッフル」を食べたことがあるだろうか。外はカリッと、中はしっとり、そして程よい甘さ。100円台の手頃な価格で、気軽に楽しめるのもうれしいところ。今回はそんなベルギーワッフルの人気ブランド「ミスターワッフル」を12店舗展開している株式会社キャンパスカンパニーの平井裕晃さんをゲストにお招きした。

ヨーロッパ旅行中に本場のベルギーワッフルのおいしさに目覚めてしまった平井さんは1996年にベルギーへ渡る。そしてあちこちのワッフルを食べ比べ、「これぞ」と思った店に頼み込んで修行をさせてもらった。帰国後すぐの1997年には1号店をオープンさせたのだが、これが想像以上の大ヒットとなる。行列が絶えることはなく、すぐに店舗展開を開始し、たった1年で8店舗まで急拡大させたのだ。

「一度成功するというのは実はそんなに難しいことじゃないのかもしれません。実力以外に『たまたま』という運やタイミングもあるでしょうからね。けれども、『成功し続ける』というのは本当に難しいことだと思います」と平井さんは言う。というのも、ベルギーワッフルブームはまたたく間に過ぎ去り、3年後には経営店舗はたった2つにまで減っていたのだ。「この頃は本当にドン底でした」。

しかし、それにより色々なことを深く考え直すことになる。事業を大きくすることはもちろん大事なことかもしれないが、それよりも自分は「いかに沈まないようにするか(倒産しないようにするか)」を考えるべきだという結論にたどり着いた。そして、そのためには「人(スタッフ)に向き合わなければならない」という覚悟を決めたのだ。

食品の製造販売のような事業であれば、まずは商品力が大切なのは言うまでもない。そして、店舗デザインやパッケージ、ディスプレイなどを通じたブランディングも欠かせない。しかし、平井さんはそのうえであえて「スタッフこそすべての源である」と考え、そこに経営のリソースを注力することにした。そして自社の事業を、飲食業でも食物販業でもなく、「人財育成業」と定義している。

そう決めた以上は、具体的な施策に徹底的に落とし込むことにした。例えば、平井さん自身が約30人の全社員と毎月2時間も個別面談をしている。年に一度や半期に一度ではなく、毎月というのが驚きだ。そして、毎回の面談では来月に向けて目標を設定し、翌月の面談ではその目標が達成できたかをともに振り返る。

興味深いのは、この場合の目標には売上などの数値的な要素は一切入っていないことだ。あくまで、ミスターワッフルで働くスタッフとしてきちんと成長できているかを話し合うのだ。平井さんは言う。「もちろん売上は大事です。でも、それを目標にしてしまうと、やっぱりおかしなことが起きてくるんです。そうではなく『こういう風になりたい』『こういう風になって欲しい』ということをきちんと共有して、それを少しずつ達成していけば、数字は絶対に付いてきますね」。

他にも、ミスターワッフルではこんなことを導入している。

・独自のブランドブックをつくって、その内容をスタッフと常に共有している。さらにそのブックは常に改訂を続けている。

・社内のSNSやミーティングなどの場では「互いを褒める」ことを強く推奨していて、そのための仕組みも用意している。

・入社してから半年までの期間を非常に重要な時期と捉え、専任のトレーナーをつけることで、スムーズに会社に馴染めるようにしている。

こうした一連の施策の結果、人材の定着率は劇的に高まったという。仕組みの導入直後こそ、それに合わない人間は離れていったそうだが、その後は入社時にこうした内容をきちんと共有してから入ってもらうため、価値観をともにできる良い組織になったのだ。

ミスターワッフルのミッションは「たったひとつのワッフルで笑顔をつくりだす」である。そしてこれを実現するために、平井さんは日々スタッフに語りかけている。「スタッフからはしょっちゅう『平井さん、また同じことを言ってますね』と言われるんです。でも、僕はこれってすごい褒め言葉だと思っています」。

「価値観の共有」が重要だというのは誰もがわかっていながら、けれども具体的な行動を通してそれを実践し続けようとする人は決して多くはないはずだ。そんな中、平井さんは今日も明日も、また同じことを言い続けるのだろう。お客様の、そしてスタッフの笑顔をつくりだすために。

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