【 ゼロイチラボ セッションレポート】

2011年の東日本大震災から8年が経過したが、まだまだ「復興」しているとは言えない状況の被災地も多い。今回は被災地支援からスタートし、現在は日本の水産業を何とかしたいという使命感で幅広い活動を繰り広げているフィッシャーマン・ジャパンの長谷川琢也さんをゲストにお招きした。

長谷川さんは過去に大切なご家族を失った経験を持っている。そして3月11日は自分自身の誕生日だった。それゆえに東日本大震災であれだけ多くの命が奪われたことに大きな衝撃を受け、何かをしなければと自然に体が動いてしまったという。それはまるで「Don’t think. Feeeel!」という、あの有名なフレーズのように。

ところが、がれき撤去などのボランティアの活動を色々としてみたものの、何かがしっくりこなかった。「自分にできること、自分がやるべきことは何だろう?」、そんな疑問が頭から離れなかったのだ。長谷川さんは当時ヤフーでEC関連の仕事をしていたが、だからこそインターネットの力を復興支援に利用することに思いが至る。

「ECの仕事をしていて、いつも『ポイントとつけろ』とか『セールをやれ』とか言っていたんですけれど、いざ東北で生産者が一生懸命つくっている食材を見たら、そんなこと思いもしませんでしたね。情報をきちんと伝えてあげれば、値下げなんかしなくても売れるんです。実際にヤフーで三陸のわかめを売ってみたら、ものすごく売れたんです」。こうして立ち上がったのが「復興デパートメント」だ。東北の名産品を、インターネットの力で全国に発信し、販売していった。

復興支援に対する長谷川さんの覚悟は本気だった。会社を説得して、石巻に拠点をつくり、家族を連れて移住をした。そして会社も「復興支援できちんと事業を成功させてこい」と、それを本気で後押ししてくれた。石巻の食材を使った弁当をつくってその販路を広げたり、東北の伝統工芸に新しいデザインを組み合わせたりと、様々な活動を展開する。

しかし、石巻に拠点があった長谷川さんは改めてその土地を見つめる中で、「漁業・水産業」こそが、この地域の復興には欠かせないという問題意識を持つようになった。そして2014年に立ち上がった組織が「フィッシャーマン・ジャパン」である。8人の漁師、3人の魚屋、そして長谷川さんを含む2人の事務スタッフの合計13人が発足時のメンバーだ。生産や販売などの枠を超えて、水産業を活性化する「フィッシャーマン」の新しい姿を模索しようとしたのだ。

日本の水産業は多くの課題を抱えている。かつて世界一位の漁獲高を誇っていた日本だが、生産量は落ち込み、消費者の「魚離れ」も進んでいる。またトータルの漁獲高は減少している一方で、一部の魚介類については乱獲が行われており、資源管理面でも後れを取っている。被災地復興のみならず、こうした日本の水産業全体に問題意識を持っているがゆえに、彼らは組織名にあえて「ジャパン」を入れているのだ。

フィッシャーマン・ジャパンでは、水産業にかかわる仕事において「新3K」、すなわち「カッコいい・稼げる・革新的」という姿を目指すとともに、2024年までに「多様な能力を持つ新しい職種『フィッシャーマン』を1000人増やす」という具体的な目標を掲げている。そして実際に彼らの活動は多岐にわたっている。

被災地の水産物の生産再建や流通販売はもちろんのこと、東京での直営飲食店の経営、新たな働き手の教育や就業支援、アパレルメーカーとのコラボによるオシャレな作業服の企画、水産加工品の輸出、水産業に関するWEBメディア立ち上げ、などなど。中には、漁師がモーニングコールをしてくれるサービスを企画するなど、水産業への注目を集めるためにも様々な知恵を絞っている。

都会の大手企業でサラリーマンをしていた長谷川さんは言う。「大きな組織にいると自分が『歯車』にすぎないと感じることがあるかもしれません。けれども、地方にいくと『エンジン』になることができます。そして一度エンジンになった歯車はめちゃめちゃ強いんです。僕はそんな『スーパーウルトラ課題解決歯車』になりたいと思っています」。長谷川さんが今も籍を置くヤフーは、「情報技術で人々の生活と社会をアップデートする」ということをビジョンに掲げている。長谷川さんはそのビジョンに沿いながら、日本の水産業をアップデートすべく、今日も各地の水産現場を飛び回っている。

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