【ゼロイチラボ セッションレポート】

豚骨ラーメンの「一風堂」は多くの人の知るところだが、それを運営する力の源ホールディングスが、豚骨以外のラーメン店やうどん店、さらにはハンバーグレストランやとんかつ屋、さらには「パンダエクスプレス」というカジュアルな中華業態まで展開していることを知っている人は少ないことだろう。今回は同社の代表である清宮俊之さんにお越しいただいた。

2008年にニューヨークへ出店したことを皮切りに、力の源ホールディングスはラーメンを世界へと「輸出」する海外出店に非常に注力している。現在世界13カ国に231店舗を展開しているが、そのうち海外には84店が存在するので、割合でいえば実に3分の1に達している(今では想像できないが、2008年にラーメン店をニューヨークに出すという試みは狂気の沙汰と思われたそうだ)。

しかも単に同じパッケージを水平展開するのではなく、仮に「IPPUDO」という同じ屋号であっても、その立地によってスープの味、麺の長さ、価格、オペレーションなどすべてを変えながら組み立てていくので、それにかかる手間たるや尋常ではない。同社の特徴は、出店する国のマーケットを極めて丁寧に分析する「準備期間」をもうけていることだ。1号店をつくる段階ですでに工場機能までを見据えているので、投資額がかさむことは最初からわかっている。それゆえに、勢いや勘だけで出店を決めるわけにはいかないのだ。

しかしそこまで準備をしてもうまくいくとは限らない、例えば現在は同社の稼ぎ頭となっているオーストラリア市場だが、出店当初は大きな赤字を垂れ流し、撤退を真剣に考えていたそうだ。しかし、改善を重ねながら、店舗をしぶとく増やしていった結果、同地にて確固たるポジションを築くことに成功している。清宮さんは言う。「海外出店では考えられない突発的な事態がいくつも起こります。よほどの覚悟とそれに耐えられる資金的な体力がないと、決して勧められるものではありません」。

力の源ホールディングスのもう1つの特徴は「クリエイティビティ」だ。例えば、創業30周年を記念して行った無料でのラーメンのふるまい。あるいは麺をぬいて代わりに豆腐を浮かべた商品の開発。その後、様々な店舗や企業が似たような施策で追随したので珍しくはなくなってきたが、それを最初に考えて仕掛ける姿勢は間違いなく同社の強みだ。「サッカーで言えば、ゴールキーパーではなくフォワードでありたい」というのはまさにそういうことだろう。

強い運営力を支えている陰には研修制度の充実も挙げられる。九州において農業法人を持ち、その法人が持つ広大な土地にて何泊にもわたる研修を全従業員に対して毎年実施している。ときには、世界の各店舗からマネージャークラスを招集して、何カ国語も飛び交うグローバルな研修も行っている。あるいは、各地の小学校に出向いて、小学生にラーメンと餃子の手作り体験を提供する「チャイルドキッチン」というプログラムがあるのだが、これを担当する社員自身が一番成長できるのだそうだ。こうして継続的に成長するスタッフこそが、一風堂をはじめとする店舗に魂を込めているのだろう。

同社の企業理念は「変わらないために、変わり続ける」である。参加したメンバーから清宮さんにこんな質問が飛んだ。「力の源ホールディングスにとって、『変えてはいけないもの』とは何なのでしょうか?」。するとしばらく考えてからこのような答えがあった。「実は僕自身にもわかりません。ただ、一番大事なのは、じゃあ一体何を変えていいのか、そしてどう変えればいいのか。あるいは何は変えてはいけないのか、そういうことをいつも考えるということではないかと思います」。

現状に満足せず、更なる高みのために常に試行錯誤を繰り返すこと。そしていつの時代もお客様から一定の評価をいただくこと。それがおそらく「変わらないために、変わり続ける」ということの本質なのだろう。

【ゼロイチラボ セッションレポート】