【ゼロイチラボ セッションレポート】

新宿駅西口から歩いて15分。新宿中央公園の横に、今年リニューアルオープンをしたデザインホテル「THE KNOT TOKYO SHINJUKU」がある。400もの客室がありながら稼働率が90%を超えているという人気のホテルだが、その理由のひとつに充実したレストランやカフェの存在があるのは間違いない。本日のゲスト保村良豪さんが経営する「MORETHAN」では、ベーカリー、カジュアルダイニング、グリルレストラン、ティースタンド、ラウンジという多彩な機能が融合し、合計280坪と圧倒的な存在感を放っている。

ホテルの運営自体を行っているわけではないのだが、保村さんは「レストランホテル」という存在に大きな可能性を感じているようだ。「今、日本の中に面白いホテルというのはあまり見当たりません。けれども、魅力あるレストランがあることで、お客さんをそのホテルに呼び寄せることはできるはずです。そうした『レストランホテル』はこれから増えていくでしょうね」。

保村さんが飲食業の未来を考える上でホテルに注目しているのは、差別化やそれによる集客だけが理由ではない。そこには業界が抱える構造的な問題が潜んでいる。「かっこいい飲食店では、若いスタッフがいきいきと働いています。若者にとって飲食店は素敵な職場です。ただ、スタッフが年齢を重ねて40代になると、店にはなかなか居場所がなくなってしまうんです。そして彼らは飲食ではない別の産業に流れて行ってしまいます」。

確かに、体力が必要とされる飲食業界では、若さが大きな強みなのは間違いない。「けれども、例えばホテルのフロント業務は、ベテランの落ち着きや経験がむしろ生きてきます。すると、僕らがホテル業まで手を広げられたら、スタッフが長く働ける職場環境を提供してあげられることにもなると思うんです」。

保村さんの経営する店舗はどこも独特の魅力を放っている。細部までデザイン性にこだわっているのだが、それが押しつけがましくないのだ。「デザインを主張する時代は終わったと考えています。もちろん時代に左右されないワクワクドキドキする仕掛けは必要です。けれども、本当に大切なのはお客様が何を『体感』するかなんです」。その言葉通り、デザインでも料理でも必要以上に強い主張をしないおかげで、お客は店を自分の好きなように感じ、楽しむことができている。お客に「余白」を残してくれていると言えるかもしれない。

店を出店する立地の選び方についても、保村さんは独自の考えを持っている。「駅前の立地が本当にいいのか?と疑問に思うことがあります。本当にいい店をつくるには、むしろ繁華街ではない方がいいのではないでしょうか」。こうして保村さんの店舗は「世間の基準」ではなく、自らの美意識に基づいて場所が選ばれ、そしてその場所にふさわしい店として、その地で歴史を刻んでいく。

店舗数の拡大に疑問を感じ、一時期は規模を縮小することも考えたという保村さんだが、今は自然な形で成長していく道を選んでいる。東南アジアを皮切りに、海外事業についても順次取り組んで行くと言う。話の中では「正しい循環」「他機能とのマッチング」「セカンドキャリア」「SDGs」など、他の飲食経営者とは異なる未来を描いていたのが印象的だ。ちなみに保村さんが冒頭にスクリーンに映し出した言葉は「Next Generation Restaurant」。これまでの価値観ではない、次の時代の飲食店。それこそが保村さんのつくっていきたい世界なのだろう。

セッション終了後、保村さんの経営するMORETHANで懇親会を開催。

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