【ゼロイチラボ セッションレポート】

「スタッフが足りない」。これは飲食店経営者同士の挨拶の常套句になってしまった感がある。以前からその傾向はあったものの、この数年、急速にその状況が悪化しているのだ。今回のゲストはテクノロジー、中でも情報テクノロジーを活用して、外食産業の課題解決やアップデートに取り組んでいる(株)トレタの中村仁さんだ。同社は飲食店の予約管理・顧客管理を効果的・効率的に行うサービスを提供している。

飲食店における「人材不足」、そしてそれとリンクする「ブラックな労働環境」という根源的な問題は、詰まるところ外食業界の「低い生産性」に起因していると中村さんは言う。近年は国を挙げて生産性向上に取り組もうという動きがあるが、市場規模、そして雇用吸収力の大きい外食産業こそ、真っ先にこの課題に取り組む必要がある。

歴史を振り返ってみると、家族の「生業」という位置づけだった飲食店に転機が訪れたのは、1970年代のことだ。この頃から1980年代半ばにかけて普及していったのが「POSシステム」である。これにより、大規模な店舗を効率的に運営することが可能となり、ファストフードやファミリーレストランが一気に誕生した。この頃に生まれた企業やブランドの多くは、今も大きな存在感を示している。

ところがこの「POS革命」以降、外食産業においては目立つような大きな転機は訪れていない。もちろんその後も業態開発は進み、おしゃれな店やおいしい店は続々と誕生した。しかし、産業をアップデートするような変化は起きていないのだ。実際、これだけテクノロジーが進んだ現代においても、世の中の多くの飲食店では「FAXで発注」「現金のレジ締め」「手書きでシフト管理」などがまかり通っている。

中村さんはこうした状況を「失われた30年」と呼んでいる。しかし、ここに来て状況に変化が生まれようとしている。トレタをはじめとするオンラインの予約管理サービスなどによって、飲食店がリアルに顧客情報を手に入れることができるようになったのだ。POSとは「商品」を管理するためのシステムであり、実はそこに顧客という観点はない。何がいつどれだけ売れたのかを把握しているだけなのだ。

しかし、顧客情報がきちんとデータ化されると話は変わってくる。今までは店長をはじめ一部のスタッフの記憶の中、あるいは見返すことのない予約ノートに留められていた顧客に関する情報を、店舗全体の運営や改善に活用できるようになってきたのだ。中村さんはこうした一連の変化を「顧客革命」と呼ぶ。その場合に重要になるのは顧客との「関係性」であり、店舗が意識すべきは「顧客体験」である。

おいしくて物珍しい料理を提供することも依然大切ではあるが、それよりも「誰に何をどのように提供するのか。それによって顧客はどう感じるのか」を設計することこそが問われるようになってきたというわけだ。トレタの保有するデータを分析すると、「常連客比率」と「店舗の繁盛度」との間には、明確な相関があるという。これは当たり前のようだが、大抵の飲食店は新規客獲得のために情報を発信し、クーポンを発行しようとしてばかりいる。

中村さんは「これからの外食産業はコミュニティビジネスの側面が強くなるだろう」と指摘した。デリバリー、出張シェフ、フェス、キャンプやグランピング、ホームパーティ、スペース貸しなどが人気を集め、「飲食物や場所の提供」に留まっていては、ますます競争環境が悪化する中、「自分たちはコミュニティを運営している」という視点に切り替えられるかは極めて重要だ。飲食店の経営者は改めて自店の価値を問い、それを再定義する必要があるだろう。そして「新しい飲食ビジネス」(飲食店ではなく)は、こうした視点の転換によって誕生するのだろう。

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