【 ゼロイチラボ セッションレポート】

「『塚田農場』などを経営するエー・ピーカンパニーの副社長が独立して店を出したらしい」。エー・ピーカンパニーと言えば、料理をはじめとする業態の魅力はもちろんだが、学生アルバイトへの手厚い就活支援、来店回数に応じて顧客が「昇進」するというユニークな販促施策など、一見奇抜ながら、考え抜かれた打ち手が評判だが、それらを推進してきたのが今回のゲスト、ミナデインの大久保伸隆さんだ。

独立後に出したのが「烏森百薬」という店だ。東京・新橋駅からすぐ、烏森神社の目と鼻の先にある同店は常連客でいつも賑わっている。表層だけを見れば、ごく普通のオシャレな居酒屋という佇まいではあるのだが、そこはさすが大久保さん、様々なことを考えて設計している。

まず、同店は「デフレモデル」だと言う。大久保さんは「単位面積あたりいくら売り上げるのか」というような視点は持っていない。高い売上をたたき出すのはもちろん素晴らしいことだが、それよりもまずは固定費を下げることで損益分岐点を低く設定し、「多少ヒマでも利益が出る」構造をつくることに注力している。

それは「店は長くやってこそ」という思いがあるからだ。飲食店の売上には波がある。調子があまり良くないときでもきちんと継続できることで、店は長きにわたって存在することができ、それによって常連客や地域に貢献することもできるのだ。

そして、あえて「何屋でもない」というポジションを取りに行っている点も面白い。普通はレッドオーシャンである外食マーケット(しかも場所は新橋)で戦い抜くためには、強いコンセプトやキラーメニューを打ち出していきそうなものだ。しかしあえてそれはしないでいる。「専門店ももちろんいいんですけれど、長きにわたって存在しているのって、『総合居酒屋』と『ファミレス』なんですよね」と大久保さんは言う。「それに、結局『特別』よりも『定番』の方がみんな好きなんです」。

料理に対する考えもユニークだ。全30品ほどのフードメニューの中で、最初から最後まで自分たちでつくっているのはわずか5品程度で、残りの25品は「他力」である。例えば、人気メニューの唐揚げは、九州のとある評判の唐揚げを仕入れて、店舗ではそれを揚げるだけにしている。こうした「他力」に頼るのには2つの理由がある。

1つは「他者へのリスペクト」だ。世の中にはおしいものをつくっている人や会社がたくさんある。であるならば、あえて自分たちで無理してつくらなくても、それらを仕入れて、店舗では最終加工をした方がお客の満足度も上がるだろうという判断だ。こうしたスタンスを大久保さんは「食のセレクトショップ」と考え、堀江貴文さんは「キュレーション居酒屋」と称したそうだ。

そしてもうひとつの理由は、限られた人的リソースの有効活用だ。仕込みに取られる時間を減らせる分、スタッフの負担も減り、またその余力を本当に作りたいメニューや接客などに振り分けることができる。結果的にスタッフの、そしてお客の満足度も上がることだろう。

そんな大久保さんが出した2号店もユニークだ。千葉県佐倉市のユーカリが丘というエリアにて、「里山トランジット」という名の「ファミレス的」な店舗を出店した。同エリアは非常に思いの強いディベロッパーによって開発・管理されているが、その思いに共感した大久保さんが新たな取り組みを行おうとしている。

エリア内には農地や菜園が多いのだが、生産者にその野菜を持ち込んでもらい、それを調理加工する「持参自消」というスタイルを模索している。廃棄される野菜を集荷して、それを惣菜などに加工して格安で提供する試みも始めると言う。地域コミュニティの中で、飲食店は果たしてどのような機能を発揮することができるかという、ある種の社会実験になるだろう。

説明は省略するが、大久保さんの会社の名前「ミナデイン」には、「みんなで一致団結して立ち向かおう」、そんな思いが込められている。スタッフやお客はもちろんのこと、生産者やディベロッパーをも巻き込むそのスタンスは、まさに「ミナデイン」に他ならない。

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