2018年4月のゲストには、Pizza 4P’s corporatio代表の益子陽介さんをベトナムからお招きした。「ベトナムでピザ?」と不思議に思う人もいるかもしれないが、「Pizza 4P’s」はベトナムにおける屈指の人気レストランであり、ホーチミンやハノイにてすでに合計9店舗を展開している。デザイン性の高い店舗空間、窯で焼き上げるハイクオリティなピザの数々、そしてホスピタリティ溢れるサービス、どれもが同店には欠かせない大切な要素だ。

そもそも、益子氏はなぜベトナムでピザレストランを始めたのだろう?彼はかつて大手IT企業であるサイバーエージェントに勤務していて、その一環でベトナムにて投資事業を行っていた経験がある。独立して事業を立ち上げるにあたっては様々な国を検討したそうだが、知見やネットワークがあるベトナムを選んだことは自然な成り行きだったのかもしれない。また益子氏自身が庭にピザ釜をつくってパーティを楽しんでいたこと、そして古くからの友人がピザ職人をしていたという縁もあったようだ。

益子氏の先見性を感じるのは、当時のベトナムの経済的・食文化的な成長段階をきちんと把握していたことだ。外食産業に一定の市場規模があり、かつ外資系の大手ピザチェーンに十分な売り上げがあったこと。そして、国民の平均年齢が27歳で今後ますますの経済的・文化的な発展が確実なこと。それらから考えれば、ベトナムの都市部で近い将来に「本格的でオシャレなピザレストラン」が支持されることは想像できたのだと言う。

そしていざ開業をしてみると、益子氏の狙いは見事に当たる。現在の平均客単価は1,200円ということだが、日本の感覚に当てはめるとその5倍に相当するそうだ。つまり6,000円であるから、決して安くない華やかなレストランだ。開業した年こそ日本人の比率が高かったそうだが、現在では顧客の70%がベトナム人だというから、いかに現地に溶け込んでいるかがわかるというものだ。

ユニークなのは、テクノロジーを店舗オペレーションに取り入れようとする姿勢だ。例えば、4P’sには1店舗あたり数十台のカメラが配置されていて、それらが客席を捉えている。そして店舗以外の場所に「コントロールルーム」がある。これによって、「あのテーブルの皿を下げて」とか「あちらのお客様に飲み物のお代わりを聞いて」といった指示を現場スタッフに出すことが可能となり、それがきめ細やかなサービスに繋がっている。

他にもAIを導入して、表情変化などを認知するような研究も始めているそうだ。こうした動きは未来のレストランでは至極当たり前のものになっていくだろう。それを早いタイミングで導入しているのは、かつてIT業界にいた益子氏のバックグランドと、新興国ならではのテクノロジーを採り入れることへの抵抗感のなさゆえだろう。日本の「おもてなし」をベースにしつつ、こうした柔軟さを持ち合わせているところが4P’sの強みに見える。

今や年商が20億円に達していて(日本の感覚に転換すれば年商100億円だ!)、成長著しい同社。今年もベトナム国内で7店舗の出店計画があるという。そんな勢いとセンスのある会社ゆえ、周囲もほうってはおかない。力の源ホールディングスとの提携により、6月には益子氏たちがベトナムにて「一風堂」を出店予定だ。また投資も集まっており、近い将来の上場も視野に入っている。

とはいえ、彼らは決してただ飲食店を増やしたいわけではない。2011年の創業時に描いたビジョンの最終段階にあるのは「edutainment」(教育educationとエンタメentertainmentを融合させた言葉)である。1つの島をまるごと使って子供たちが楽しみながら学べる場所をつくりたいというのが、彼らの夢なのだ。飲食店はその夢の実現のために、最初に取りかかるべき事業だったのである。驚くのは、すでにと言うべきか、いつの間にかと言うべきか、その夢が少しずつ具体化していることだ。場所も定まり、建築的な計画を進めている最中だという。

「益子さんはこれからどうしたいんですか?」と尋ねると、「ベトナムでもまだまだやるべきことがあるし、インドでもピザレストランを開いてみたいし、他にも…」と話は収束しそうにない。大きな目標をセットして、それに向けて着実に歩んでいるさま。そして何よりその目標が自分のエゴに由来するのではなく、「もっと大きな理想」に基づいていることがとても印象的だ。店名であり社名でもある「4P’s」は、実は「for peace(平和のために)」に由来するという事実がそれを象徴していると言えるかもしれない。小さな声で一見頼りなさそうに話す益子氏だが、その目が見つめる未来は実に力強い。