「ゼロから食ビジネスをつくるラボ」、2017年12月は「CHEESE STAND」を運営する株式会社nobiluの藤川真至さんと、「Minimal」を展開する株式会社ベースの山下貴嗣さんの2人をゲストにお招きした。チーズとチョコレートの間には一見共通項はなそうだが、この数年続く「クラフト」(手作りのぬくもりや品質感)という時流にそれぞれうまく乗っており、またともに30代の経営者ということで参加メンバーにとっても身近な存在として感じられたようだ。

前半は藤川氏の話からスタート。CHEESE STANDは出来たてのチーズを販売する店舗だが、そのきっかけになったのは学生時代にイタリアで食べたつくりたてチーズのおいしさにまでさかのぼる。その頃からいつかそんなチーズの店をやりたいと考え、店舗のラフスケッチまで書いていたというから、想いの強さがうかがえる。

2011年には開業を決意して動き始めるが、当初想像していた以上に様々なハードルが存在した。チーズづくりというのは乳牛の生産地の近くの工房や郊外にある大規模工場でつくられるのが普通で、渋谷のど真ん中でそれをやるなどという前例はなかった。保健所からも強く反対されたが、1つ1つ粘り強く交渉して状況を整え、何とか許可を得ることに成功する。また生乳の流通にも独特の商習慣があり、お金を出せばすぐ仕入れられるというものでもなかったそうだ。

そうした問題をクリアして、2012年に渋谷の外れに「SHIBUYA CHEESE STAND」をオープンさせる。オープン直後はバタバタしたまま日々が流れていったが、半年ほどして方向性を見直すことになる。売上を確保するために販売していたサンドイッチではなく、本来のウリであるチーズをしっかりと中心に据えることにしたのだ。そして新しいチーズを開発したり、様々なイベントを実施したりと地道な活動を続けていくうちに、メディアからの注目を集めるようになった。

その後はCHEESE STANDのリコッタやブッラータというチーズがコンクールで賞を獲得するなど、着実に実績を積み重ねている。また、近隣に2号店を出したり、チーズをテーマにしたオウンドメディアを立ち上げたりと、チーズを日本でもっと身近にすべく日々奮闘している。

そして後半はMinimalの山下氏。チョコレートの領域で世界的に起きている「Bean to Bar」(カカオ豆から最終製品まで)という流れをいち早くキャッチし、そこで勝負をかけた店舗を出したのはまだわずか3年前のことである。それまでのチョコレートは、大手メーカーによる大量生産か、ショコラティエと呼ばれる職人がつくる作品のようなもののいずれかであった。

しかし、産地に足を運んで見聞を深めていくうちに、豆選びをきちんと行うところから始めれば、それまでとは違うクオリティのチョコレートがつくれることがわかってきた。そして香料や乳製品などに頼らずに、カカオ豆という素材を生かすチョコレートづくりは極めて日本人に向いていることにも気がついた。こうして、「引き算」と「うつろい、旬」をキーワードとしてMinimalというブランドは立ち上がった。

興味深いのはマーケティング戦略を考えていくうえで、ブランドとしてのターゲットを「男性」に置いたことである。スイーツである以上、実際の購買層は女性が中心になるのは当然だが、それでは競合との差異化も難しい。また、Bean to Barは産地や製法(豆の焙煎など)などにウンチクがつきものだが、それを好むのはより男性に多いだろうという理由もある。実際、店舗の内装や商品パッケージなども男性が好みそうな仕上がりになっている。

チョコレートづくりは長い歴史があるので、製法もある程度固まっている。しかし彼らはこれまでの常識にとらわれずに、一般的なチョコレートづくりでは使わなかったような器材を多く導入している。そうした試行錯誤を繰り返して、自分たちらしい個性ある商品を開発し続けている。結果、様々な企業やブランドからコラボレーションの話も舞い込み、独自のポジションを築きつつあるようだ。

チーズもチョコレートも世間的にはこの数年注目を集めている。そして2人もそれを実感している。しかし、いかにして薄っぺらなブームで終わらずに、マーケットに対して新たな価値を提供していくかを真剣に追求している点は共通している。藤川氏は朝の3時からチーズづくりに精を出し、山下氏は機会があればカカオ豆の産地を訪問して生産者との関係を深めている。そうした地道な努力こそが肝心の品質を生み出し、ひいてはブランドをつくっているのは間違いない。