2018年1月のゲストはスマイルズの遠山正道氏、言わずと知れた「スープストックトーキョー」の生みの親だ。現在50店舗以上を展開する同ブランドは、特に女性が気軽に一人で食事をしたいというニーズにしっかりと応えることで人気を獲得してきた。スープストックトーキョーが誕生した経緯などは、著書「スープで、いきます」に詳しく書かれている。当ラボではこの本を課題図書として事前に参加メンバーには読んできてもらったので、本セッションではあまり触れることはなかった。

今ではすっかりブランドも定着しているため、遠山氏がスープストックトーキョーの業務に関わる機会はほとんどないと言う。その分、同社の新しい取り組みに注力しているようだ。例えば、昨年「銀座シックス」という商業施設の中にオープンした「海苔弁 山登り」。世の中に弁当を売る店は山ほどあれど、「海苔弁」に光を当てた店舗というのはこれまでになかっただろう。

遠山氏は言う。「みんな海苔弁のことは好きなのに、海苔弁ってなぜか弁当屋さんで一番安いものにされちゃっているんですよね」。確かに、コンビニや持ち帰り弁当店でも海苔弁は200円、300円台で売られていることがほとんどだ。遠山氏がよく言うフレーズに「なんでこうなっちゃうんだろう?」というものがある。スープストックトーキョーも既存のファストフードに対する疑問から生まれている。海苔弁という存在の今のあり方に疑問を投げかけることで生まれたのが、この「海苔弁 山登り」なのだ。実際、どの弁当も1000円を超える価格だが、製造が追いつかない状態が続いていると言う。

特徴的なのは「マーケティング的な発想」が皆無なことだ。銀座シックスで開業の準備を進めている中で、ふとある時「あれ、このビルで持ち帰りの弁当って、一体誰が買うんだろう?」と遅ればせながら議論になったことがあるそうだ。冷静に考えれば、オフィスワーカーがランチを買うというシーンが想像しにくい建物で、「持ち帰り弁当」にポテンシャルがあるとは思いにくい。

近隣の就業者人口、観光客の求めているもの、海苔弁に対する期待値などのマーケティングデータから、「銀座シックスで海苔弁専門店を出店する」という結論には決してたどり着かないだろう。むしろそこから導き出されるとしたら、「出すべきではない」という解だったはずだ。しかし、結果は大繁盛。こうしたいわゆるマーケティングを無視する姿勢が遠山氏、そして同社の大きな魅力だろう。

同社の事業領域は飲食店に限られない。「1冊の本しか扱わない」という本屋「森岡書店」や、一日一組限定でレモンがテーマの「檸檬ホテル」など、異色のプロジェクトが多い。これらについて遠山氏は「小さいからできること」があると言う。この点に関して当日の資料の中にこんな一節がある。「分母が小さい。だから、リスクが少ない。だから、思い切ったことができる。個人のアイディア、センス、コミュニケーション、情熱、リスクがそのまま仕事と全て重なってくる。だから、仕事と人生が重なっている」。スマイルズが仕掛けるプロジェクトにはこんな一面が隠れているのだ。

同社で新規事業のアイディア会議をする際には、1つのルールがあると言う。それはそのアイディアが「個人の理由に紐付いていること」。つまり「市場が大きいから」「これにはチャンスがあるから」という外的な要因ではなく、「自分がやりたいから」「自分にとってこれは意義があると思えるから」というような動機から始まっていなければならないということだ。これは先ほど触れた「マーケティング無視」と同じことだろう。

ラボメンバーから出た事業アイディアについても、その観点でこう言った。「自分が本当にやりたいんだったら、やればいいんだよ。ただそれだけ」。いかにも遠山氏らしい指摘であり、ある意味仕事というものに対する極論でもある。